あれは数年前の夏、友人たちと山奥へキャンプに行った時のことです。緑豊かな自然に囲まれ、川のせせらぎを聞きながらのキャンプは最高!…のはずでした。事件が起きたのは二日目の昼過ぎ、近くの滝まで軽いハイキングに出かけた時のことです。最初は爽やかな風を感じながら、気持ちよく山道を歩いていました。しかし、滝に近づくにつれて、何やら黒い小さな虫がまとわりついてくるようになりました。最初は数匹だったので、手で払いながら気にも留めていませんでした。ところが、歩を進めるうちに、その数はみるみるうちに増えていったのです。気づいた時には、私たちの周りをブンブンと羽音を立てながら飛び回る、無数の黒い虫…それは紛れもなく虻でした。それも、普段見かけるサイズよりも一回り大きい、ウシアブのような種類です。彼らは容赦なく私たちの体にまとわりつき、服の上からでも構わずに肌を狙ってきます。半袖短パンだった私はもちろん、長袖長ズボンを着ていた友人も、服の隙間や薄い生地の上から攻撃を受けました。「痛っ!」「うわっ!」あちこちで悲鳴が上がります。虻は叩いても叩いても、次から次へと襲いかかってきます。まるで黒い雲のように私たちを取り囲み、逃げ場はありませんでした。パニックになりながらも、とにかくこの場から離れようと、必死で山道を駆け下りました。走っている間も、虻は執拗に追いかけてきます。髪の毛の中、服の中にも入り込もうとしてくる感覚に、恐怖と不快感で鳥肌が止まりませんでした。ようやくキャンプサイトまで逃げ帰り、テントの中に駆け込むと、皆、体中を刺されて(咬まれて)腫れ上がっていました。特に私は露出していた腕や足がひどい状態で、赤く腫れ上がり、強い痒みと痛みに襲われました。楽しいはずのキャンプは、この虻の襲撃によって一変。その後の時間は、痒みと痛み、そしていつまた襲われるかという恐怖で、心から楽しむことはできませんでした。この経験以来、私は夏のアウトドアでは虻対策を徹底するようになりました。あの時の恐怖は、今でも忘れられません。自然の美しさの裏には、こうした厳しい側面もあるのだと痛感させられた出来事でした。