雨が降ると、庭の景色は一変する。植物たちは水滴を纏って生き生きとし、空気はしっとりと潤う。そして、そんな雨の日や雨上がりの庭には、普段は物陰に隠れている住人たちが姿を現す。その代表格が、蛞蝓(ナメクジ)だ。正直に言うと、私も以前は蛞蝓が苦手だった。あのヌメヌメとした見た目と、植物を食い荒らすイメージから、見つけるたびに駆除の対象としか見ていなかった。しかし、ある雨の日、ふとした好奇心から、庭で活動する蛞蝓をじっくりと観察してみることにした。雨上がりの夕暮れ時、庭の隅の湿った場所に目をやると、早速、数匹の蛞蝓が活動を開始していた。ゆっくりと、しかし確実に体を伸縮させながら移動している。体からは絶えず粘液が分泌され、それが銀色に光る軌跡となって残る。この粘液のおかげで、垂直な壁や、ザラザラしたブロック塀の上さえも移動できるのだという。一体どこへ向かっているのだろうか。一匹の比較的小さな蛞蝓を追ってみる。彼は、苔むした石の上を這い、次に落ち葉の下に潜り込もうとしている。どうやら餌を探しているようだ。別の少し大きな個体は、アジサイの葉にたどり着き、その柔らかそうな葉の縁をかじり始めた。食べるスピードは遅いが、着実に葉が削られていく。しばらく観察していると、二匹の蛞蝓が出会い、互いの体を寄せ合うような行動を見せた。蛞蝓は雌雄同体。もしかしたら、これは繁殖行動なのだろうか。普段見ることのない、生命の営みの一端に触れたような気がした。もちろん、彼らがガーデニングの「害虫」であるという側面は否定できない。しかし、こうして彼らの行動をじっくりと観察してみると、ただ不快なだけの存在ではなく、必死に生きている一つの生命なのだという当たり前の事実に気づかされる。乾燥から身を守り、餌を探し、子孫を残そうと活動している。その姿は、他の多くの生き物と何ら変わらない。雨の日の憂鬱な気分も、庭の小さな住人たちのドラマを垣間見ることで、少しだけ違ったものに感じられた。次に雨が降ったら、また彼らの静かな活動を覗いてみようか。そんなことを考えながら、家の中へと戻った。