家屋に侵入するアリの駆除において、最も根本的な解決策は巣ごと駆除すること、特に巣の中心である女王アリを駆除することだと考えられています。女王アリさえいなくなれば、新たな働きアリが供給されなくなり、いずれ巣は崩壊するためです。しかし、この女王アリを特定し、確実に駆除することは、実は非常に難しい技術を要します。なぜ女王アリの駆除は難しいのでしょうか。第一に、女王アリは通常、巣の一番奥深く、安全な場所に身を潜めており、滅多に巣の外に出てくることはありません。働きアリのように餌を求めて地上を徘徊することがないため、直接その姿を目にする機会は極めて稀です。第二に、アリの巣自体がどこにあるのかを特定すること自体が困難な場合が多いです。家屋に侵入してくるアリの行列を追っても、壁の隙間や床下、庭の土の中など、追跡が難しい場所に巣があることがほとんどです。巣の入り口を見つけたとしても、内部は複雑な構造になっており、女王アリがいる部屋まで到達するのは容易ではありません。巣の規模によっては、地下数メートルにまで及ぶこともあります。そのため、プロの害虫駆除業者が女王アリ駆除を目的とする場合、直接女王アリを探し出して殺すという方法は現実的ではありません。一般的に用いられるのが「ベイト剤(毒餌)」を利用した方法です。これは、アリが好む餌に遅効性の殺虫成分を混ぜたもので、働きアリが餌と認識して巣に持ち帰り、女王アリを含む巣の中の仲間たちに分け与えることで、巣全体を時間をかけて駆除するという仕組みです。この方法であれば、女王アリが巣の奥深くにいても、間接的に薬剤を届けることが可能です。ただし、ベイト剤の効果を最大限に引き出すためには、いくつかの技術的なポイントがあります。まず、発生しているアリの種類を特定し、そのアリが好むタイプのベイト剤を選ぶ必要があります。次に、ベイト剤を設置する場所も重要です。蟻の通り道や巣に近いと思われる場所に適切に設置しなければ、働きアリが持ち帰ってくれません。さらに、ベイト剤の効果が出るまでには時間がかかるため、根気強く待つ必要があり、その間、他の餌にアリが誘引されないように、室内の清掃や食品管理を徹底することも求められます。このように、女王アリを確実に駆除するには、アリの生態に関する知識と、適切な薬剤選択、設置技術、そして根気が必要となるのです。
女王アリ駆除の技術とその難しさ