緑豊かな郊外に建つ築20年のマンション「グリーンハイツ」。その穏やかな住環境に、ある時期から異変が生じ始めた。原因はハトだった。最初は数羽が手すりに止まっている程度だったが、次第にその数が増え、一部の住戸のベランダでは糞害が深刻化。さらには、エアコンの室外機の下や、使われていない換気フードの中に巣を作るハトまで現れた。住民からは管理組合へ苦情が寄せられ始めた。「洗濯物が干せない」「朝早くから鳴き声がうるさい」「衛生的に不安だ」…。管理組合の役員たちは、この問題を重く受け止め、対策に乗り出すことになった。まず、役員会で現状把握と対策の検討が行われた。被害状況は住戸によって差があり、対策への意識も住民ごとに温度差があることが分かった。「自分のところは被害がないから、費用負担はしたくない」という声もあれば、「一刻も早く徹底的な対策をしてほしい」という意見もある。管理組合としては、マンション全体の資産価値と住環境を守るため、統一的な対策が必要だと判断。専門業者数社から見積もりを取り、対策方法の説明会を開催することにした。説明会では、業者から様々な対策方法(ネット、スパイク、忌避剤など)のメリット・デメリット、費用についての説明があった。質疑応答では、費用負担の割合、景観への影響、効果の持続性などについて活発な意見交換が行われた。最終的に、最も効果が高く、長期的な視点で見ても有効であると判断された「防鳥ネット」を、被害の大きい一部の住戸と共用廊下の手すりなどに設置する案が賛成多数で可決された。費用は修繕積立金から一部支出し、残りは被害を受けている住戸の区分所有者が負担するという形で合意に至った。施工はスムーズに進み、ネットが設置された箇所では、ハトの姿を見ることはなくなった。しかし、対策が施されていない場所にハトが移動する「追い出し効果」も見られたため、管理組合では継続的に状況を監視し、必要に応じて追加対策を検討していくことになった。この事例は、集合住宅におけるハト対策が、単に技術的な問題だけでなく、住民間の合意形成や費用負担など、様々な課題を乗り越える必要があることを示している。管理組合のリーダーシップと、住民一人ひとりの協力が、問題解決の鍵となったと言えるだろう。
あるマンションのハト対策奮闘記住民と管理組合