あれは小学生の頃の夏休みでした。家の庭の隅に、小さな蟻塚ができているのを見つけたのです。毎日、せっせと土を運び出す働きアリたちの姿を眺めるのが、私の密かな楽しみになっていました。どんな構造になっているのだろう、女王アリはどんな姿をしているのだろう、子供心に好奇心は膨らむばかりでした。そしてある日、私はとんでもないことを思いついてしまったのです。「蟻の巣を掘ってみよう!」と。軽い気持ちでした。シャベルを持ち出し、蟻塚の周りを少しずつ掘り進めていきました。働きアリたちは大混乱に陥り、右往左往しています。それでも私は構わず、巣の中心を目指して掘り続けました。しばらくすると、少し開けた空間が現れ、そこには他のアリよりも一回りも二回りも大きな、黒光りするアリが一匹、じっとしていました。「これが女王アリだ!」私は直感しました。図鑑で見た姿と同じです。興奮と達成感で胸がいっぱいになりました。しかし、その次の瞬間、私の好奇心は残酷な方向へと向かいました。シャベルの先で、その大きなアリを、つい、突いてしまったのです。女王アリは一瞬身をよじらせましたが、すぐに動かなくなってしまいました。殺してしまった…。その事実に気づいた時、サーッと血の気が引いていくのを感じました。あれほど活発だった働きアリたちの動きが、心なしか鈍くなったように見えました。私は急いで土を埋め戻しましたが、罪悪感でいっぱいでした。翌日、恐る恐る蟻塚のあった場所を見に行くと、働きアリの姿はまばらで、以前のような活気は完全に失われていました。さらに数日後には、アリの姿はほとんど見られなくなりました。私が女王アリを殺してしまったことで、あの小さな社会は崩壊してしまったのです。あの時の罪悪感と、命の重さを実感した感覚は、大人になった今でも忘れられません。ただの好奇心から行った行為が、一つのコロニーの終わりを招いてしまった。あの出来事以来、私はどんな小さな生き物に対しても、その命の尊さを考え、むやみに手を出さないように心がけています。女王アリを殺してしまったあの夏の日は、私にとって、生命の脆さと、人間の行動が自然に与える影響の大きさを教えてくれた、忘れられない教訓となっています。
私が女王アリを殺してしまった日