家の中で遭遇する虫の中でも、トップクラスの不快感と恐怖を与える存在、それがゲジ、通称ゲジゲジではないでしょうか。暗闇から突如現れ、壁や天井を信じられないスピードで駆け抜けるその姿は、一度見たら忘れられないインパクトがあります。今回は、そんなゲジゲジの驚くべき生態と、彼らが持つ意外な一面について掘り下げてみましょう。ゲジは、ムカデ綱ゲジ目に属する節足動物です。ムカデの仲間ではありますが、一般的に危険視されるオオムカデなどとは異なるグループに分類されます。最大の特徴は、その非常に長く多数の足です。成虫では15対、実に30本もの歩脚を持ち、さらに体長よりも長い触角と尾脚(後方に伸びる付属肢)が、その異様な姿を際立たせています。この多数の長い足こそが、ゲジゲジの驚異的な移動能力の秘密です。彼らはこれらの足を巧みに連携させ、凹凸のある壁面や天井さえも、落下することなく高速で移動することができます。そのスピードは、まさに「疾走」と呼ぶにふさわしく、人間の目では追うのが難しいほどです。このスピードは、主に獲物を捕らえるため、そして外敵から逃れるために発達したと考えられています。見た目の恐ろしさとは裏腹に、ゲジは非常に臆病な性格です。人間の気配を感じると、すぐに物陰に隠れようとします。そして、実は人間にとって有益な存在、いわゆる「益虫」であるという点は、あまり知られていないかもしれません。ゲジは完全な肉食性で、ゴキブリやその卵、ハエ、蚊、クモ、ダニ、シバンムシ、南京虫など、家の中に潜む様々な小型の害虫を捕食してくれます。鋭い牙(顎肢)で獲物を捕らえ、体液を吸うのです。ゴキブリの天敵としても知られており、一晩で数匹のゴキブリを捕食することもあると言われています。つまり、ゲジがいるということは、家の中に他の害虫がいるサインであると同時に、それらの害虫を駆除してくれる存在がいるということでもあるのです。毒性は非常に弱く、人間を積極的に咬むことはまずありません。万が一咬まれたとしても、軽い痛みを感じる程度で、深刻な症状に至ることは稀です。もちろん、その見た目から生理的な嫌悪感を抱く人が多いのは事実です。しかし、彼らの生態と役割を知ることで、少し見方が変わるかもしれません。