「蜂は夜には活動しない」という認識は、一般的に正しいと言えます。ほとんどの蜂は昼行性であり、夜間は巣で休息しています。しかし、この常識が当てはまらない、例外的な存在がいることをご存知でしょうか。それは、他ならぬスズメバチ、特にモンスズメバチや一部のキイロスズメバチです。これらのスズメバチは、夜間でも活動することが確認されており、この特異な生態が、夜の野外活動や灯火に予期せぬ危険をもたらすことがあります。彼らが夜間に活動できる理由は、その優れた視覚能力にあります。スズメバチの複眼は、他の蜂に比べて大きく、わずかな光を効率的に捉えることができる構造になっています。そのため、月明かりや街灯などの僅かな光源があれば、夜間でも飛行し、狩りを行うことが可能なのです。特に、夜間に灯火に集まる蛾などの昆虫は、彼らにとって格好の獲物となります。このため、夜間にバーベキューやキャンプをしている際のランタンの光や、自動販売機の明かり、コンビニエンスストアの照明などに、スズメバチが飛来してくるケースが報告されています。夜だから安心、という油断は禁物なのです。また、巣自体も夜間に完全に眠っているわけではありません。巣の入り口には、夜間でも見張り役の蜂が控えており、巣に振動を与えたり、強い光を当てたりすれば、昼間と同様に警戒し、攻撃してくる可能性があります。夜間に蜂の巣の駆除を行う際も、この点を十分に考慮し、慎重に行う必要があるのです。ほとんどの蜂は夜には休む、というのは事実です。しかし、最強の捕食者であるスズメバチの中には、夜の闇さえも自らの狩りの舞台に変えてしまうものがいる。この例外的な存在を頭の片隅に置いておくことが、夜間の思わぬ蜂被害を避けるための重要な知識となります。夜の灯りの下で大きな羽音が聞こえたら、それは招かれざる危険な客の訪れかもしれません。